※一般的な二胡の指導者が指南されている事とは、視点が異なります。
奏法として「何が正しいか」「どういう形であるべきか」ではなく、人が『道具』を扱う時の身体として、何が「心地いいか」「自然に、自由に動けるか」(結果として)「パフォーマンスが上がるか」を私のレッスンでは優先しています。
※分かるように説明するには、やはり実際にレッスンで身体を見ながらがいいですから、理解が難しい場合は参考になるところを持っていって下さいね。
二胡の座り方について。
もろもろの前に一つ。
演奏をする環境で重要なのは、椅子の高さです。
「足の平全体で床を踏み込める」を目安に、椅子を選んで下さい。それが大前提です。
足の平がつく高さならば楽器は安定します。膝が下がって、楽器が前方に傾斜することはないです。
身長によっては椅子選びも難儀しますよね。
高さの合う椅子がない場合は、ギター用の足台や、足置きになる台を、「左足が安定するように」しっかりとかまして下さい。電話帳を使うなど家の中に何かありそうですよね。
さて、それでは。
まず、自分が手に入れた「二胡の座り方・構え方」のこれまでの情報や理屈を、脳内から一旦外に出して下さい。
こう教わった。
これが正しい奏法らしい。
座る位置、左足の太もも、角度、椅子の硬さ、云々。
まず、人の体格も、椅子も、個々でサイズが(かなり)異なります。身長によって座る位置が思っている以上に変わります。ですから、「座面のこのあたりに座る」というような説明は、おそらく目安になりません。その点は皆さんも分かりますよね。
足の平がついていることを守れば、自ずと、どのあたりにお尻がくるか決まりますし、小ぶりの椅子であれば、背もたれまで深く腰掛けることになるでしょう。それでいいです。ポイントは、背もたれに「寄りかからない=後ろ重心にならない」ということで、座る深さではありません。
硬い椅子がいいということもありません。
長く座っているとお尻が痛くなってきます。庇おうとして姿勢がゆがんで、腰に悪影響がでます。当然リラックスしたよい演奏はできません。クッションはある方がいいです。しかし、ソファのように沈み込むほどのクッションは姿勢が崩れるので良くありません。
演奏以前に、『身体に悪影響がないこと』がキーポイントです。
臀部の肉付きも人それぞれですので、自分にとって、厚すぎず~硬すぎずの、適度にクッションのある椅子を選びましょう。
それでは、
頭を空っぽにしてから、ただ座ってみて下さい。
楽(らく)な姿勢で、自然に、座るだけです。
2時間でも3時間でも座っていられる姿勢です。
どうでしょう。できますか?
「何が楽なのか分からない」
「これで正しいのか分からない」
そうですよね。
骨の話をすれば、座骨、仙骨、尾骨、脊椎、頭蓋骨と展開していきますが、言葉からして分かりづらいでしょうから、ここではいたしません。でも、ひとつだけ取り上げさせて下さいね。
腰です。
腰を反らせてはいけません。背筋が伸びて姿勢良く見えますが、身体的にはNGです。腰が緊張し、背骨から上半身の自由が妨げられます。しなやかで自由な身体から遠ざかります。
このようにやってみましょう。
椅子に「座る」ではなく、「腰を降ろす」。
そんなニュアンスです。
この動きをしてみて下さい。
1:椅子の前に立つ ※腰、膝は張らない
2:目の前に広がる大気を、空から胸に迎えるイメージで、両手はだらんと下に落とし、身体を緩めて、深く呼吸する
3:ゆっくり吐きながら、椅子に「腰を降ろす」
「しっとり」と肩が下がって、おだやかに「大地に着地した」感覚が出てくるのではないでしょうか。
※筋肉を使って姿勢を保とうとしないで下さい。筋肉は、使えば→疲れます。
※骨をやわらかい大地に着地させるイメージです。まわりの肉は自然に下に落ちます。
※台風が来ても自分だけは飛ばされないくらい、どっしり、しっとり、根を伸ばしたように座れるはずです。
もちろん足は開きます。自然と開いていますよね。
両足でバランスを取って下さい。
女性だから足は閉じる? お上品な方がいい? スカートだから開けない?
そういうことを気にしている時点で、ごめんなさいね、思い切りアウトです。
足を開ける服装にしましょう。
短いスカートの時はストールのような布を膝前に垂らせばいいです。歌番組でミニスカートのアイドルグループが座る時にそうしていますよね。
※必ず二胡が滑らない布にして下さい。本番前は必ず同じ布で試して下さい。
※足を組むのは絶対NGです。運動の可能性・身体の可動域が広がりません。よいパフォーマンスが得られません。※名人の闵惠芬氏は足を組んで演奏されていましたが、巨匠たる不動の身体感覚の為せる技です。

世の中の生き物を見回してみましょうか。
動物、鳥、魚、虫、e.t.c.
地上には様々な生き物がいますね。
走る。飛ぶ。泳ぐ。
地球の生き物たちは、身体の流れに「自然」であることで、最大のパフォーマンスを導き出しています。
身体が「自然」であることは、運動を効率よく最大に引き出すのです。
そうは言うけど、そもそも、ヒトの自然な姿勢ってどんなですか?
そうですね。そこですよね。
子供を思い浮かべて下さい。
もしくは、お元気な高齢者の何気ない姿も参考になります。
無理のない姿勢です。
何にも抗わない、大地にすとんと降りている姿勢です。
それは、モデルのような「見られている」「見せる」姿勢ではないということに気づきましょう。
魅せる力やビジュアルの強さはないですが、しかし、見ていると、「やわらかくなる」「緊張が解けてくる」「胸がゆるんでくる」「目尻が下がる」、気がつくと自分まで微笑んでいるような、やさしい感覚をもたらしてくれます。
地球の重力のままにある、素直な身体です。
抽象的な話ではなく、二胡以外の、ピアノでもバイオリンでも管楽器でも打楽器でも同じですが、素晴らしい奏者、世界的な奏者というのは、すとんと、大らかに、そこに大自然が開けているように『在る』ものです。
名演はそういう身体から生まれています。
YouTube動画でチェックしてみてはいかがでしょうか。世界的奏者の見た目は、決して背筋がピンと伸びた、いわゆる(学校の先生に褒められそうな)『意識して作った良い姿勢』でないことは、すぐに気づくと思います。
ある意味で野性的(本能的)な姿勢をとっています。
しなやかで軽いのに、どっしりと重い、不動の姿勢です。




二胡を構えた時の足の平は、いつでも大地を蹴って、踏み出せる・踏み込める、ような感じです。
そのまますっと立ち去れる、パッとダッシュできる、そんな足の平です。
だから身体を自在に操れます。
演奏しているのですから、常に身体は動いています。瞬間瞬間で微細にバランスは変わります。
座骨の間を中心に、背骨をストンと落として、右へ、左へ。足の踏み込みは、自由自在に上半身を操るポイントになるはずです。
ですから「足が浮く」のは駄目ですね。
足の平も自由に。
肩も、腕も、上半身も、自由に。
自分も自由に。
何が大切かと言えば、「自然体」であることが大切です。
それが最も強い。
しなやかで、美しい。

それで、あなたは、どう座っていたいでしょうか。
どのように、ここに『在り』たいでしょうか。
この東洋の二弦の楽器、二胡の響きを、誰に、どう、届けたいでしょうか。
きっと大丈夫ですね。
その響きを届けられますね。
皆さんの二胡ライフがもっと楽しくなりますように♪
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