二胡の松脂~使い方・種類・選び方・おすすめ

二胡のお道具

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松脂(まつやに)の仕事

弦を弓で擦って音を出す「擦弦(さつげん)楽器」において、松脂は必需品です。ロジンとも呼びます。

松脂がないと音が鳴りません。

弓毛は、馬のしっぽです。松脂は、この弓毛に塗布します。
白馬は白、色素のある馬は色毛になります。脱色している場合もあります。

人間の髪の毛もそうですが、毛の表面はキューティクルなどで凸凹しています。そのため松脂の粒子が付着しやすい、入り込みやすい、と言われています。

松脂がついてない状態は、ツルンツルンでひっかかりがありません。その状態でボーイングしても弦は振動しません。例えるなら、ビニールの糸とか、プラスティックの棒で、弦を擦っているような状態です。イメージできますよね。滑ってしまい音は鳴りません。

バイオリンやチェロの弓も、同じように馬の毛を使い、松脂を塗布します。

新しい弓の場合

新品の弓には松脂はついていません。ツルンツルンで弦を擦っても音は全く鳴りません。

松脂はついていない方がいい

理由は以下の2点です。

・毛が新品だという証拠になる。
・自分の好みの松脂を、まっさらな毛に塗布するべき。

新品なのに「松脂がついている弓」だった場合、「松脂がついていないもの」に交換できるか販売店に確認してもいいと思います。

ただ、その弓が気に入っている場合は、松脂はそのうち落ちますので、そのまま使うことにした方がよいと思います。交換した弓が弾き心地が良いかは分かりません。

また、弓を選ぶ際に、松脂をつけて試し弾きさせてもらったとしたら、自分以外の人が、その弓を試していたとしても許容範囲としましょう。そういうものですよね。

二胡を購入した際に付属でついてくる弓については、なにしろ二胡ですので、皆さんご存知の通り大らかな面があります。(ケースはすぐ壊れますし)”二胡についてる弓はおまけ” ”後で自分の好きな弓に買い替えて下さい”、などの理由もあると思います。気になる方は販売店に問い合わせして下さい。

※ほどなくで松脂はとれます。
※神経質になることでもありません。

松脂(まつやに)の塗り方

楽器は横に置いて塗る

二胡は、楽器本体に弓が装着されています。そのため、松脂を塗る際に、ちょっとしたコツが必要です。

初心者は「楽器を横に置いた状態」で塗りましょう。その方が安定します。指が毛に触れないようにして、毛に張りを作って、表と裏に松脂を塗っていきます。

慣れれば座って楽器を構えた状態で塗布できます。やり方は人それぞれですが、皆さん上手くやっていますよね。

弓は分離させなくてOK

弓は(楽器から)分離させません。

楽器から弓を外した方が塗りやすいですが、人それぞれです。
その都度、楽器から弓を外すのは大変面倒ですし、初心者の方は弓を分離させる方が(松脂を塗ることよりも)ずっと大変でしょう。再び装着する際に、弓毛のねじれを見逃す可能性もあります。

毎度毎度の松脂塗りですから、どういう形であれ快適に済ませたいところです。指導者の指示に従いましょう。

新品の毛はしっかり多めに

新品の毛は、しっかり多めに松脂をつけます。

といっても、どのくらいが「多い」のかが、初心者の方は分からないですよね。新品の毛は、ペンキのような「白」ではなく、ほんの少し黄みがかった色をしていると思います。その「黄み」が見えなくなるまで塗って下さい。

新品でツルンツルンですので、松脂が着きはじめるまでに、ほんの少し時間がかかりますが、気にしないで塗る動作をしましょう。そのうち着きはじめます。付着が始まると、動きに気持ち抵抗が出ますので分かります。難しくありません。むしろ簡単でしょう。誰でもできますよ。

新品の松脂

新品の松脂は、表面がコーティングされたように固まっていてツルツルです。接地面となる部分を少し意識して擦ると、表面のツルツルが崩れて、毛に付着し始めます。

両面、ムラなく、均一に。

感覚としては、毛に消しゴムをかけるような感じでしょうか。ふわふわと上滑りするような軽い動作では付着しません。松脂をちゃんと毛につけて動かします。(力の入れすぎは毛を痛めるのでNGです。そうしなくても着きます。)

最初は具合が分からないので「あれ?滑ってうまくつかない?」と思うかもしれませんが、ツルンと固まっていた松脂の表面がザラッとほころんできて、すぐに毛に付着するようになります。

私の場合は、10~15センチ幅くらいでゴシゴシゴシ~と塗り進めていき、まんべんなく塗布できたところに、最後の仕上げで、全体をならすように端から端までサ~っと往復でなじませます。

特に弓元はしっかり塗ります。ここは中指と薬指の皮脂がつきやすい部分で、皮脂がつくと松脂が全く乗らなくなります。皮脂予防も兼ねて、ここはしっかり塗った方がいいという感覚が私にはあります。

塗る量

適宜、です。
塗りすぎても、足らなくても、よろしくありません。まんべんなく、調度よく、弓に塗布された状態がいいです。

「それが分からないんだけれども、、、」ですよね。経験ですね。
大丈夫です。そのうち分かるようになります。

ちなみに、松脂が少なくても音は鳴ります。
多くても鳴ります。
どちらでも鳴りますから、とりあえず困ったことにはなりません。ただ、弾き心地は異なります。

◆松脂が少ないと音量が出ません。
音色に豊かさが出ません。物足りなさにストレスを感じて、動きでフォローしようとボーイングに力が入ります。それはNGですから、すぐ松脂を塗りましょう。「あ~、弾きやすい~。鳴る~~。」と松脂の恩恵を深く感じることでしょう。

◆松脂が多いと雑音が出ます。
片栗粉のような足止め感が出てきて弾きづらいです。粉がかなり飛び散っているはずですから、それが目安です。手で竹をはたいて余分な松脂を少し落としましょう。

盛りすぎNG

前述の通り、松脂の塗り過ぎはNGです。

少なくとも、塗りすぎると、楽器に白い粉が飛び散り、弦に歯石がついたように松脂の粉が盛り上がってこびりつきます。これは塗りすぎです。

この状態では、弦の反動が鈍くなりますし、毛にこびりついた松脂のせいでボーイングの際に雑音が出てくるかもしれません。

弦を押さえつけて圧力でボーイングするタイプの方は、ブルドーザーのようにこびりついた松脂をも巻き込んでボーイングしているでしょうから、つけすぎ状態でも気にならない?かもしれませんが、つけすぎによる振動の弊害はあるはずです。

対処としては、弦にこびりついた松脂を、ちょくちょくふき取りながら弾いていきます。そのうち正常に戻るでしょう。

なんか、いい感じ

松脂の具合の話ですが、「なんだか分からないけれど、いい感じ!」と思う瞬間が、おそらく皆さんありますよね。まんべんなく粒子が配置されて、ちょうどいい具合になったのだと、いつも思っています。その感覚を覚えていきます。

様々な要素があるはずですが、松脂を塗った後、少し弾き込んできたときに、「これはいい!」と思うような時が私は多いです。氷が溶けだしてくるようなスムース感です。

松脂を塗る頻度

松脂は演奏している間にどんどん落ちていきます。
楽器や服にも白い粉が付着しますので、「あ、これが落ちてる状態なのね」ということは、すぐ分かるかと思います。

松脂が落ちるにつれ、楽器の発音は弱まります。「弦のアクションが弱まってきたな、、(音が出にくくなったな)」と思ったら、塗るタイミングです。

人によって、一度に演奏するボリュームや、ボーイング量がかなり!異なるのと、弓の使用年数や、毛の状態が異なりますので、時間では伝えづらいですね。

・数時間たっぷり練習される方、ボーイング量の多い方は、毎回。
・1時間くらいの練習でしたら、3回に1回塗るくらい。
適当ですが、このくらいが目安でしょうか。しかし、やはり毛の状態が大きく左右すると思います。

私の場合は、一日の内の、どこかで必ず松脂を塗ります。その日最初に楽器を手に取るタイミングで塗ることもありますし、途中で塗ることもあります。丸一日弾き込む時は、感じた時にその都度で何度か塗り重ねます。根本的に私はズボラですから、面倒くさくて松脂をぎりぎりまで塗らないという所業をしますが、本当はそれはよくないようですね。

人のタイミングは、あまり参考にならないですから、「あ、松脂、足らない。」というサインを、自分の感覚で知るといいでしょう。

単純に、鳴りがおとなしくなります。弦の振動が弱くなります。最初は分かりにくいかもしれませんが、二胡に触れる時間が多くなるにつれ、擦った時の「引っかかりの感覚」や、出てくる音で、明確に分かるようになります。

松脂メーカーの深いこだわり

(※二胡専用の松脂については、私は使用していないので分かりません。近年は良質なものが出ているようですので検索してみて下さいね。)

西洋楽器の松脂(バイオリン用)を、二胡に使用することは可能です。

お世話になっていたバイオリン工房のご主人は、「松脂ひとつで、バイオリンの値段が10万上がる。」とおっしゃってました。

松脂は、よく目にする大手メーカーの量産品や、多少お値段が高い工房のものまで、豊富に種類がありますが、工房の製品は松脂だけを専門にした職人の手仕事で作られたものになります。各工房で受け継がれてきた技術と、弓メーカーや演奏家と幾度も試してきたこだわりのレシピがあり、この小さな松脂にここまで?!というくらいの膨大な研究が費やされて誕生したものになります。

楽器を購入する際、私たちは楽器本体に注目しがちですすが、松脂も同じなんですよね。
「美しい音」をひたすらに追求する『職人技の賜物』なのです。

弓も、弦も、駒も、楽器本体も、職人たちの揺るぎない美意識の具現化ですから、そこに宿る『道具の精神性』を味わえるのも、楽器演奏の喜びといえるでしょう。

小さな黄金の松脂を手のひらに乗せて、職人たちのあくなき追及とロマンを、是非とも音に変えて羽ばたかせてみましょう!

松脂の選び方

二胡に適した粘度=バイオリン用の松脂

(画像は旧リーベンツェラーの松脂。粘度違いでⅠ~Ⅳにナンバリングされており、番号でどの楽器用かを見ます。これはⅣのチェロ用。)

西洋楽器の松脂は、バイオリン、ビオラ、チェロ用に分かれています。弦に合わせて、粘度や硬度が異なり、太い弦(低音)になるほど松脂の粘度は上がります。どれでもいいというわけではありません。二胡には、「バイオリン用」「バイオリン&ビオラ用」を選んで下さい。

ギリシャの松脂メーカー「メロス」が二胡用の松脂を製作しています。「バイオリン用より硬め」(=サラサラ度が強い)という説明ですので、二胡の弦の細さに合わせてそうしたのかな?と思います。
「二胡専用が作られたのだから、メロスを選べばいいのか?」というと、そうとは言えません。

ライトとダーク

松脂は、大きくわけてタイプが2種類、「ライト」と「ダーク」があります。
松脂の粘度(固さ)、粒子の大きさに違いがあります。弾き心地や発音が(かなり)変わります。

どちらが自分の好みかを選び、松脂のブランドを絞り込みましょう。

目安ですが、一般的には、さらさらと滑らかで繊細=軽快でクリア、ブリリアントな音色を可能にするのが、ライト。アタックがありしっとりパワフル=豊かでやわらかい音色を可能にするのが、ダーク、と言えるかと思います。

※「艶がある音色」など、演奏を評する部分は、弾き手の技量です。松脂とは別の話です。楽器のクオリティすら関係ない話でしょう。
結局のところ道具は関係ないのですが、それはまた別の話ということで、松脂を選んでまいりましょう。

1:ライト(さらさら)

低粘度。硬め。
小さめの粒子。
明るい黄色~琥珀色。透明感がある。

大まかには高音域向け(細めの弦)。
夏向き。
割れやすいので落下注意。

ベルナルデル、アルシェ、ピラストロ、レザーウッド、など。

「ライト」は、軽やかで煌びやかなボーイングを導きます。ひかっかりがダークより弱めな分、さらさらと滑らかな弾き心地で、軽快なボーイングを実現できます。粒子が細かいため、音の輪郭がクリアに立ち上がり、華やかで明るい音色を出したい方に向いていると言えるでしょう。二胡では雑音がでやすくなる高音域まで、歌いやすいボーイングを提供してくれることでしょう。

気温の高い夏も溶けることはまずありません。

音量、音の伸びにねちっこさが欲しいかたは、「ダーク」の方が向いているかもしれません。

2:ダーク(しっとり)

高粘度。やわらかめ。
大きめの粒子。
暗い色。不透明。

大まかには低音域の太い弦向け。
冬向き。
やわらかいので高温で溶ける場合がある。

ピエール・ギョーム、ミラン(黒猫ダークタイプ)、ジェイド、ラリカ(旧リーベンツェラー)、セシリア(旧アンドレア)など

「ダーク」は、粘度が高い分、弦の引っかかり、吸い付きがいいです。やわらかい響きで、アタックのあるパワフルな鳴りを運んでくれることでしょう。繊細さは粒子の細かいライトの方が向いていますが、力強いという点でソロ演奏に向いています。音が鳴りやすいため、初心者向きとも言われます。

しかし、粒子が大きいため、拾わなくてもいい雑音を拾いやすくなるので、弓の返しに注意が必要になったり、スピードのあるリズミカルな曲では扱いづらいと感じるかもしれません。製品によりますが、弦への吸い付きのせいで足をとられるような感覚です。ライトに比べて換弦しづらく、弓も返しづらいと感じるかもしれません。(※粘度が増したものは、弾きづらさも増すので要注意) 
やわらかいけれども荒さや雑味が生じますので、それらが苦手な方は好みではないでしょう。

ダークはやわらかいので、うっかり塗りすぎることがありますから、そちらも注意しましょう。

→もたもたした場合の対処法
手持ちのライト(サラサラ)系の松脂を重ねて塗ってみましょう。するするっと弾きやすくなると思います。ブレンドは配分を意識していないと、その都度で状況が変わってしまいますので、応急措置と思って下さい。
好みの塩梅が分かっていれば、オリジナルの配分として決めておくのもいいと思います。

ライトか、ダークか?

二胡用として楽器セットについてくるものは、私が知る限りですけれど、色を見ても、ほとんどは「ライト」のさらさら系の松脂だと思われます。

中国製の弦を使用している方、中国伝統曲を演奏される方、二胡本来の民族楽器としての音色を出したいと思う方は、ライトの松脂をよく使ってらっしゃるように思います。二胡の弦の細さや、小刻みなリズムや滑らかな伝統曲の奏法を考えても、ライトの方が適しているのだろうと考えられます。西洋音楽をよく弾く二胡愛好家の方も、ライト愛用者は多いと思います。

しっとり系は好みの別れるところで、べたっと感じる方はアウトだと思うでしょうし、ねちっこいボーイングの伸びと音量が好みの方は、ダーク一筋かと思います。

ソロ用の松脂もあります。引っかかりの強い、迫力のある表現を可能にするために、これらは粘度を上げたダークのものが多いです。(とはいえ、ソロ奏者が皆さんダークかというとそうでもありません。ライトでもソロ用は出ています。)

そもそも、バイオリンは4弦あります。二胡は2弦です。似たように見えますが弦の材質も異なります。(バイオリンの中2弦がチューニングでは二胡と同様(D・A)になります)
二胡はバイオリンほどの太い弦を扱いませんから、松脂にバイオリンと同等の粘度は(そもそも)必要ない、とも言えます。

この点で、二胡に合った松脂選びとしては、ライト系で選んでいく方が、おそらく王道ではないかな?と思ったりします。ブレンドしても大丈夫ですので、2種類買って、バランスをみながら塗り付ける方法もあります。

ちなみに、ここまで話しておいてなんですが、かくいう私はダークが好みです。
ライトは、私にとっては軽すぎて弾きづらく、音色も好みではありません。いくつか試しましたが、即ダークに戻しました。チェロをやっていたこともあり、ねちっこく内弦を深く振動させることが好きなので、ここは自分の好みですね。

ただし、ライト系の「アルシェのテノール」については別です。ダーク的な鳴りが、ライトであるのにしっかりと存在するように感じていて、目下おすすめしている松脂です。(この先の項目でご紹介いたしますね)

松脂の価格=クオリティ

松脂は長持ちするので、早々買い替えのタイミングがきませんね。普通のペースで2年はもつでしょう。

何を買ったらいいか分からない方は、目安になるか分かりませんが、千円よりも二千円、二千円よりは三千円、三千円より四千円、の松脂を選ぶことをお勧めします。できれば二千円以上の松脂が良いと思います。

値段の高さ=クオリティ、といってもいいかな、と思います。

二千円以下のものは汎用タイプ。大手メーカーの量産品が多いかと思います。
四~五千円台ものはハイクオリティです。そのあたりのものは職人のこだわりの結晶ですから、ぐっと使用感が変わることでしょう。

高いといっても数千円ですし、長期間使えますので、金額の分得るものも大きいと考えてよいように思います。※そうでもない、とおっしゃる方もいると思いますので、あくまでも、迷った時は、という事にして下さい。

➡だからといって、バイオリンでのレビューがいい&一番高いものがいいという、選び方は気を付けましょう。

上に記しましたが、二胡とバイオリンは弦が違います。1万円近いバイオリンの松脂が最近でてきましたが、気に入らなければ、一生使わないでしょう。「ま、これで使ってみるか」、という事にならないくらい好みでないかもしれません。損失が大きいです。

実は、私自身1万円の松脂を購入したのですが、全くダメでした。お話にならないくらい弾きづらく、砂場に足をとられて歩いているような苦痛のボーイング感覚になりました。ひじょうにストレス。使用している弦の種類にもよりますので、別の弦なら合うのかもしれませんが、私の場合はあいにく失敗。確認のために数回弾いたのみで瞬殺されました。1万円。。冒険というにはあまりにも痛い。ああ、もったいない。

そういうわけで、わざわざ購入して試すのはもったいないですから、気になる松脂は二胡仲間に借りて試奏してみるのがいいかもしれませんね。

私のおすすめ:アルシェ・テノール

Archet - アルシェ / 「弓」の専門メーカー
1983年創業の「弓」メーカー。フレンチボウの真髄を継承し、ヴァイオリン・ビオラ・チェロ・コントラバスの弓を製作しています。国産にこだわり、現代の名弓を生み出すべく子供用の分数弓や松脂の製作も行っています。

ARCHET(アルシェ)は日本が誇る、素晴らしい弓メーカーです。松脂も製作されており、どちらもプロの愛用者は多いです。

松脂は4種類出ていますが、私のおすすめは「テノール」です。ライト系の松脂です。

大分前になりますが、松脂のおすすめとして、私は「リーベンツェラー Gold」を生徒さんに紹介していました。リーベンツェラーが販売終了したため(現「ラリカ」となって復活しています)、そこからはアルシェの旧201 Soloをおすすめしていました。私自身はダーク系の「アンドレア」などを使用していました。

近年、アルシェが新しいラインナップに変わって「テノール」が誕生したことで、ダーク派だった私も「これはいい!こっちだ!」と乗り換えてしまいました。

松脂を使用した時のボーイング感覚は、個人的な感覚だけでなく、楽器の鳴りや、弦の種類にも大きく左右されると思いますので、アルシェの4種類のラインナップの中で、自分の好みの松脂をトライしてみたらいいかと思います。アルシェに関しては、どの松脂もバランスがいいと思いますからおすすめできます。※あくまでも私の感覚ですが、偏りすぎた個性(性質)で困ることはないと思います。

◇アルシェ「テノール」
「テノール」はチェロ用なのですが、ソロバイオリン用(ビオラも含めオールマイティに使用可能)と明記されていますので、二胡にも使用できます。軽く衝撃を受けたイチオシの松脂です。
ダークのようにしっとりと弦を掴み、豊かな鳴りをもたらすのに、ライトの滑らかで軽やかな弾き心地や、クリアな音色がそのままに保たれています。使用していると「ダークなのか?」と勘違いしてしまうくらいですが、そもそもはライトなんですよね。ライトとダークの美味しいとこどりのように思います。

◇アルシェ「アルト」
好みによっては「テノール」はやわらかすぎると感じるかもしれません。その場合は、アルシェのアルト(旧201 Solo)をおすすめします。もともと私がおすすめしていた、ソロバイオリン用はこちらでしたので、テノールよりも軽快で滑らか、しかし、弦のつかみも程よい「アルト」がお好みの方も多いと思います。近年40度近くなった日本の夏には、やわらかいテノールより、アルトのほうが良いと思いますので、2つ用意して季節で使いわけるのもいいかもしれません。

◇アルシェ「エチュード」
初心者用に、多少粘度を上げて弦のつかみをよくし、音が出やすく弾きやすいようにバランス良く仕上げているものです。お値段もお手頃ですので、まだ好みが分からない入門の方は、最初の松脂としてトライしてみるのもいいと思います。

他メーカーも素晴らしい松脂は多いです。種類がたくさんありすぎて迷ってしまいますよね。個性が偏った松脂を選ばなければ、さほど失敗はないと思います。
このチョイスはひとつの参考として、指導者や二胡愛好家の皆さんのおすすめから判断して下さいね。

なんとなくの印象ですが、ライト系ですと、二胡ではさらさら系のベルナルデルをおすすめされる方が多い気がします。
私としては、ラリカとなって再出発しているリーベンツェラーを試してみたいところですが、アルシェを超えられるかなあ、、というところです。

→(後日加筆)ラリカを試しました。アルシェの圧勝!でした。ラリカは一度試しただけでお蔵入りです。ああ、もったいない。。素晴らしい松やにですが、アルシェの「弦の振動」の良さは越えられませんでした。ラリカは、アルシェを知ると「物足りなさ」を感じてしまいます。この言葉がぴったりです。あくまでも私の感覚ですが、やっぱりアルシェはすごい!と思っております。

好みの松脂を見つけよう!

同じライト系・ダーク系であっても、個々の製品で個性が違います。

※どれを選ぶかは、完全に、奏者の好みです。

楽器・弦との相性はもちろん、自分のボーイングとの相性で、どの松脂を選ぶかは変わるでしょう。それは思った以上に「人によって全然違う!」ので、自分が良いと思った松脂が、他の人の好みとは言えません。

『自分はどんな音色を出したいのか。』
『自分にとって、心地よい二胡の音とは、どういうものか。』

そこを見つめて「私の音」を追求してみてください。

そう言われても分からない?という方は、好きな奏者の音色を考えて下さい。
どんな響きでしょうか?
滑らかで華やか~なのか、しっとりと深い~のか、大まかでも分かるはずです。それに合わせて松やにを選んでみましょう。

何においてもですが、「自分を(好みを)知ること」は、根本に繋げてくれますし、満ち足りた日常を連れてきてくれますよね。
自分が求める音色を、松脂選びでも、ぜひ追求してみて下さいね。

松脂の使い方あれこれ

種類を変えるタイミング

いつでもいいです。

「松やにが気になってきた」ということは、「自分の音色が気になる」=「美しい音を出したくなった」時ですから、音への意識が進化してきた証拠です。その気持ちを、道具でもサポートしてあげましょう。早速、変えてみましょう。

新しい弓は毛がまっさらですので、弓の交換時に、気分一新も兼ねて、新しい松脂に変えるというのも有りです。ただ、弓を交換する機会はそうそう来ませんから、そのために待たなくていいです。
使いたい松脂は、弓毛を気にせず試していった方がいいと思います。
そのうちに松やにのお気に入りが分かってきます。

使用中の松脂が残ったまま、上から新しいものを塗布しても大丈夫です。
最初は2種類のブレンド状態になり、新しい松脂そのものの性質は出づらくなりますので、そこだけ気に留めて下さい。とはいえ、そこまで深刻になる必要は全くありません。
しょせん粒子ですので、そのうち以前の松脂は消えます。何も問題ありません。神経質になる問題でもないでしょう。
むしろ、気に入らない松脂を、弓替えまで使用し続ける方が大きなストレスです。

高まっていく音楽への意識を、どんどん楽しみましょう♪

季節で松脂を替える

バイオリンの場合は、夏と冬で、粘度の違う松脂を使い分けることがあります。

ご存知のように日本の夏は40度近い猛暑が続きますから、保管場所によっては粘度の高い松脂は溶けてしまいます。そのため、粘度違いの松脂を、季節ごとに使い分けるという事をバイオリンではします。
二胡でも、バイオリン用の松脂を使用する場合は、同様に対応してよいと思います。

高温に放置され溶けてしまった松脂。ダーク系でやわらかい松脂は、置き場所に注意しましょう。

松脂の減らし方(均等に減らそう!)

松脂は、丸、長方形、八角形などの形があります。
どの形状でも言えることですが、同じ場所ばかり使っていると、そこばかりが溝になって掘れてしまい、割れやすくなってしまいます。もちろん、割れたカケラが大きければ問題なく使えますが、塗りづらいです。

毎回擦る場所を少しずらして、まんべんなく、全体で、減っていくようにした方が、結果的に長く使えます。

「ここまで薄くできた!」という、どうでもいい達成感!も楽しめます。

塗る時に持つ場所

直接触わらないようにしましょう。指がべたべたして演奏しづらくなります。

ほとんどの松脂は指が触れなくていいようになっています。布部分を持ったり、プラスティックの土台部分を持ったり、箱ごと持ったり、という具合です。

本番直前に松脂の種類を変えるのは避けましょう

弦のひっかかり具合が、おそらくですが、想像以上に変わりますので、新しい種類にチャレンジする時は、本番前でない方がよいです。

本番直前に松脂を塗るのは避けましょう

リハの後半に、本番への下準備の気持ちで塗るくらいがいいと思います。
本番当日は、「足りなくなったらどうしよう、、」と、つい塗りすぎて!しまいがちです。最悪、本番中に足らなければ、演奏の合間に塗ればいいだけですから心配はいりませんし、音がでなくなるほど松脂が消えるものでもありません。塗りすぎて本番中に雑音が出てくる方が(対処しようがないので)避けたいです。

落ちた松脂の処理

・服:白くつきますが、洗えば落ちます。
・楽器:松脂ふき取り用の布を用意して、使用後に綺麗にふき取りましょう。
・弦:ふき取ります。松脂でべたべたして運指しづらくなります。
・弓:そのままにします。※ふき取りません。

楽器についた松脂は必ず拭き取る

◇拭き取り用の布を用意しましょう

市販されている楽器用のふきんを買ってもいいですし、使わなくなったガーゼハンカチや手ぬぐいでもいいです。楽器ケースに入れておく等、弾く時は常にそばにおいておきましょう。
忘れた時はティッシュでいいですから、必ずふき取りましょう。

とにかく、そのまま楽器ケースに閉まわないように。「綺麗にしてからしまう」という習慣をつけましょう。何故か?というと、単純に「松脂が落ちなくなって、ものすごく!後悔する」からです。

何年も放置した場合、松脂のなにかしらの成分が、ニスや木材と一体化し、松脂溶解液でも落とせなくなります。木材が変色することもあります。大切な楽器の場合は後悔しかない、、となります。ずぼらさんも少しだけ頑張りましょう。

松脂専用クリーナー

手入れを怠り、楽器についた松脂を放置しておくと、こびりついて普通では落ちない状態になります。

専用クリーナーで落としますが、木材のコーティングが剥げることもありますので、どれを使えばいいかは注意しましょう。詳しくは販売店に確認して下さい。

よほど汚れた時は楽器をお掃除メンテナンスに出すのも一つの手でしょうか。自分でやるのが怖いかたはその方がいいです。

「後で一気に掃除すればいいや」と思っていると、時すでに遅しなこともあります。本当に落ちなくて、深く、深く、後悔するかもしれません。楽器を片付ける際に習慣づけることをおすすめします。

楽器をしまう時は布をかましましょう

松脂のついた毛が、弦と触れ合わないようにするために、間に布を挟んでしまって下さい。そうしないと、弦が松脂でべたべたになります。

→弓を寄せる時に、弦の上に布をかましてから、弓を弦に寄せます。手ぬぐいが丁度いいですが、私はヤマハのクロスを使用しています。

※もちろん、そのままでも問題ありませんが、次に使用する時に必ず綺麗に弦をふきましょう。

松脂の最期

薄くなるとほぼ割れます。

松脂を割ってしまうと悲しくなりますが、それはそれで、お役目がまわってきます。
薄くなって割れてしまったチビ松脂は、予備用として、サランラップにくるんで楽器ケースに入れておきます。チビチビで場所をとりませんから、楽器ケースの隙間に入って調度いいのです。

「まさか、このチビの出番はないだろう。」と誰しも思うものですが、そこは油断禁物です。私は松脂をうっかり忘れる!という最悪の場面に何度かでくわし、現場で心臓が止まりそうになりました。当日直前まで練習していて、机の上が譜面やらでぐちゃぐちゃで(松脂が隠れてしまって)、入れ忘れに気づいていないのですよね。

割れ松脂の再生

割れた松脂の破片を、溶かしてくっつける、というテクニックがあります。
私はやったことがありませんので、アドバイスできませんが、興味がある方は検索すると出てくると思います。

弓の交換のタイミング

松脂がすぐに落ちてしまう

さっき松脂をつけたのに、もう落ちてしまった!という感覚になる場合は、弓毛の消耗が進んでいるかもしれません。毛の凹凸がなくなり、ツルンツルンになり、松脂が付着しにくくなっているんですね。

何故、凹凸がなくなるかは、キューティクルが剥げる、松脂の粒子が凹凸を埋めることで表面がツルツルになる等、要因は様々のようです。
いずれにしても、松脂がすぐに落ちてしまう場合は、弓の交換時期のサインと思っていいでしょう。

とはいえ!
使い込んだ弓でも松脂はのりますし、演奏もできます。

人によっては『長期間使い込んだ弓の方が良い』という方もいますし、弓は長く使い続けるものだ(その方が馴染んでよい音になる)とおっしゃっている演奏家もいらっしゃいます。

何年ごとに交換しなければいけないというものではありませんから、そのあたりは個人の感覚で好きなようにされたらよいかと思います。弓も買えばお金ですしね、自分の感覚に従うのは良い事だと思います。

毛のボリュームが減っている

しかし、松脂の付き具合というよりも、現実的にはそれ以前の問題で、毛の本数がかなり減っているのではないかと思うんです。

使用しているうちに(うっかりで)毛が切れてきますから、気が付くとボリュームが半分くらいになっていたりするものです。相対的にぐっと鳴りが弱くなっているでしょう。

毛の本数が減ってしまってはアウトですから、 そうなったら交換を考えてみましょうね。

※二胡の場合、バイオリンのように演奏中の極度な摩擦で、弓の毛が切れることは滅多にありません。
ほとんどは楽器を片付ける際に、デンペンやアジャスター、蛇のウロコに引っ掛かって切れるのだと思います。切れた分は戻りませんので、片付ける時に少し気配りして、弓の持ちをよくしたいですね。

毛替え可能な二胡の弓

二胡は、弓はまるごと取替で、(変な言い方で申し訳ないですが)使い捨ての消耗品とするのが通常ですが、作家制作の高品質な弓の場合、バイオリンのように「毛替え」に対応して下さる工房もあります。
竹の部分は使い回しで、毛のみを新品に交換するという作業です。

気に入っている竹の場合、同じものが手に入りませんから、その方がいいと思います。もちろん竹部分の疲れや経年劣化(張りの減少)もあると思いますから、曲がり具合など不備がないか工房にチェックしてもらうといいと思います。

弓の扱いの注意点

毛に指が触れないように

手の皮脂が弓の毛につくと、回数を重ねるうちに皮脂が固まって、松脂が乗らなくなります。直接は触らないようにしましょう。

特に、右手の中指&薬指は、指先が毛の上にはみ出がちです。だんだん皮脂汚れがたまって、その部分には松脂がまったく乗らなくなります。白ではなく黄色っぽくなります。ここはボーイングの際、ギリギリまで弓を使いたい部分ですのでもったいないですね。

→とはいえ、指の長い方、手の大きい方は、どうしてもはみ出てしまいますよね。どうにもならないことを考えても仕方ない!ですから、こういうものだと思って、気にせずにまいりましょう!

ぼわぼわ毛の処理~ライターであぶるのは危険

弓の毛の中には、あぶれてしまったボワボワ毛があると思います。いわゆるアホ毛です。

バイオリン工房では、弓の毛替えの際、不揃いな毛はアルコールランプで毛を炙って縮ませます。ですから、二胡の弓毛も、ライターで炙って毛を縮ませることはできないか?と考えたくなります。

これはやめましょう。多分、失敗します。
楽器職人のように塩梅を熟知していなければ、焦がすと思います。焦げると、即、ぽろっと切れます。
毛はプチっと縮むので、一瞬「上手くいった!」と思うかもしれませんが、いざ弾いてみると切れる可能性は高いです。一本のつもりで炙ったのに、周りの毛も巻き添えされてプチプチと何本も切れる事があるので、失敗は許されません。

とにかく毛がもったいないので、自分ではしない方がいいです。
→その場合は、アホ毛を、一本、切りましょう。一本の消失で済むのですから、そっちの方が良いです。

そもそも

東洋の民族楽器は、そこまで松脂にこだわらなくて良い、という意見は大いにあるかと思います。西洋の楽器と、東洋の楽器の、音色(発音)における美の哲学や、奏者の技量の計り方は、異なると私は思うからです。

近年、二胡もボーダレス化されていて、二胡らしい優雅なメロディや伝統音楽ではなく、驚くほどに高速の技巧だらけのオーケストラ・コンチェルトが作曲・演奏されるようになりました。バイオリンに引けをとらない奏法を二胡で具現化するために、弓もバージョンアップされているように思います。
しかし、当たり前ですが、自分が何を弾くかですから、そっち側に引っ張られるのはナンセンスです。高速技工ばりばりの二胡コンチェルトを弾かない方にとっては、ただの「合わない道具」となります。そもそも「バイオリンに近づいている道具=良い」わけではないですよね。自分が出したい音色を追求されて下さいね。

松脂についてでした。
いろいろな場面で、参考にしていただければ幸いです。

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皆さんの二胡ライフがもっと楽しくなりますように♪